甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

寺社建築用語集 ま・や・ら・わ行

この記事では、当ブログに頻出する寺社建築用語について簡単に説明いたします。

 

行別: / / / た・な / / ま・や・ら・わ

 

ます

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屋根などの荷重を柱に伝える部材。組物(くみもの)の構成要素のひとつ。肘木(ひじき)と合わせて使われる。

直方体の下半分を曲面で削った形状をしている。

柱に直接乗せられる斗はほかの斗よりも大きく、大斗(だいと)と呼ばれる。

 

丸柱まるばしら

断面が円形の柱のこと。角柱よりも成形に手間がかかるため格が高く、神社本殿の母屋に使われる。

対して向拝には角柱を使うのが神社建築の作法だが、向拝にも意図的に円柱を使用する例も存在する。

 

密教みっきょう

大乗仏教の一種。日本で密教と言った場合、天台宗と真言宗のことを指す。天台宗は台密、真言宗は東密とも呼ばれる。

平安時代に、最澄と空海が唐から伝えた。朝廷や貴族に支持されたが、同時に山岳信仰や修験道とも結びついた。

密教の建築には、密教本堂(密教仏堂)や、天台宗系の常行堂がある。

 

密教建築みっきょうけんちく / 密教本堂みっきょうほんどう

平安時代、密教の伝来により成立した建築様式。密教建築の例として、多宝塔、礼堂、密教本堂などがある。

 

密教本堂は、平安末期から鎌倉前期に成立したとされる。平面は正方形に近い比で、周囲1間通りを庇とし、母屋の内部は内陣外陣の境界に建具(蔀など)を設けるのが特徴。

内陣は本尊が置かれ、修行者や祈祷のための閉鎖的な空間になっている。外陣は柱を飛ばすなどして空間を広く取ることが多く、礼拝者のための空間となっている。

 

三手先みてさき

→持出 もちだし

 

瑞垣みずがき

神社の境内や、本殿の周囲を囲む垣の美称。玉垣(たまがき)とも。

樹木・灌木で囲ったものは柴垣とよぶ。

 

明神鳥居みょうじんとりい

鳥居の形式のひとつ。笠木および島木が反り、貫が柱から左右に突き出ているのが特徴。

鳥居の中では明神鳥居がもっとも数が多く、両部鳥居と神明鳥居がそれに次ぐ。

 

むね

屋根の面と面が交差する場所のこと。また、その稜線を言う。水平の棟のことを“大棟”と言ったり、寄棟や入母屋の四隅にある斜めに下る棟のことを“隅棟”と言ったり、箇所によって呼び名がある。

 

棟札むなふだ

造営や修理の記録が書かれた木札のこと。

棟木や梁などの部材の、完成時に見えなくなる場所に打ち付けられる。当初は部材に直接書き込んでいたが、平安末期(12世紀)から木札に書き込まれるようになった*1

棟札には、年代、施主、施工者、工事の経緯や背景、修理箇所などが記録される。中には、当時の文化や世相を知る手がかりになるものもある。

棟札に書かれた情報は、建築の年代を推定するうえで強力な根拠となる。寺社建築の付属品として、棟札も国宝や重要文化財に指定(指定)される例はきわめて多い。

 

棟持柱むなもちばしら

神明造の神社本殿に設けられる柱。原則として円柱で、左右の室外に立て大棟を受ける。

内側に傾斜(転び)をつけて立てられる。母屋柱と同等か、それ以上に太い材が使われるが、強度にはほとんど寄与していない。

 

室町時代むろまちじだい

日本史における時代区分。14世紀中盤から16世紀終盤までを指す。当サイトでは1336年から1573年までを室町時代とし、応仁の乱が勃発した1467年を境に前期・後期に区分している。

どの年を始期・終期とするかはさまざまな解釈がある。また、建武の新政(1333-1336)から南北朝統一の1392年を「南北朝時代」と区別したり、応仁の乱から安土桃山時代までを「戦国時代」と呼んだりすることも多い。

 

裳階もこし

仏殿の軒裏

建物を一周するように巡らされた庇のこと。写真の下の軒が裳階。

雨除けが本来の役割だが、建物を2層(あるいは2層以上)に見せる効果もあり、どちらかと言えば装飾が主目的か。

屋根のような外見をしているが、あくまでも庇なので屋根より簡単な造りをしており、垂木の構造や密度で判別できることがある。

 

持出もちだし

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通常の梁や桁は柱の真上に架けられるが、組物によって柱よりも外側に架けられる場合もあり、このような工法や構造を持出という。

組物を複雑化することで持出を連続させることもでき、2連続で持出したなら「二手先」(ふたてさき)、3連続なら「三手先」(みてさき)と呼ぶ。

 

母屋もや

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「身舎」とも書く。母屋と書いた場合は「おもや」とも読む。

本殿・本堂の区画。屋根と柱に覆われた空間のこと。対義語は向拝(こうはい)。

縁側、向拝や外陣などと区別するための呼称。

・参考:向拝と母屋

 

薬医門やくいもん

門の形式のひとつ。主柱の後方に控柱が立てられた構造で、前後は非対称となる。

一間一戸のものと三間一戸のものがあり、前者のほうが例が多い。一間一戸のものは4本、三間一戸のものは8本の柱で構成される。

屋根は切妻が多いが、入母屋を採用した例もある。

 

四脚門よつあしもん

「しきゃくもん」とも読む。

門の形式のひとつ。一間一戸(正面1間)で、2本の主柱の前と後に控柱が立てられる。柱の本数は6本だが、控柱が4本のため四脚門と呼ばれる。

屋根は切妻が多いが、入母屋を採用した例もある。

 

寄棟よせむね

屋根の形式のひとつ。4つの面を合わせた形状をしており、短辺側は三角形の面、長辺側は台形の面になる。

傾向としては寺院や住宅に採用されることが多く、神社本殿で採用される例はきわめて少ない。

・参考:屋根の分類

 

両部鳥居りょうぶとりい

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前後に柱(稚児柱と言う)が設置され、都合6本の柱を持つ鳥居のこと。四脚鳥居(よつあし-/しきゃく-)など、様々な呼び名がある。

 

楼門ろうもん

甲斐善光寺の山門

2階建てになっている門のこと。1階部分に仁王像を置いていることもある。

寺院によって呼称はさまざまで、単に楼門と呼ぶこともあれば、山門(三門)とか仁王門とかいった呼称がある場合もある。

 

脇障子わきしょうじ

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縁側が背面にまでまわさないとき、縁の行き止まりに板で壁を張る。この板壁を脇障子という。

室町後期以降の脇障子には彫刻が施されることがあり、人物や鳥獣など様々な題材が彫り込まれる。

 

鰐口わにぐち

寺院の拝所に吊されている金属製の仏具。

銅鑼(ドラ)を2つ合わせたような形状をしており、下半分は開口されている。参拝時に綱などを使って打ち鳴らす。

 

和様わよう

鎌倉時代以前の日本の建築様式。禅宗様の対義語として生まれた。

もともと和様というものは中国由来の様式が日本風に変化したもので、特に名前はなかった。

特徴としては、柱と柱の固定に長押をつかうこと、建具には蔀を多用すること、柱間には蟇股を設置すること、縁側があることなどが挙げられる。神社建築はほぼすべてが和様に則って造られている。

 

藁葺わらぶき

→茅葺 かやぶき

*1:『伝統木造建築を読み解く』p.204、村田健一、2006年、学芸出版社