甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【茅野市】諏訪大社上社前宮

今回は長野県茅野市の諏訪大社上社前宮(すわたいしゃ かみしゃ まえみや)について。

 

諏訪大社上社前宮は茅野市街の北西端の山際に鎮座しています。信濃国一宮である諏訪大社の4社に列する一社で、本宮とともに上社を構成しています。

創建については、諏訪大社上社本宮(諏訪市)と重複するのでここでは割愛。前宮は諏訪信仰の発祥の地で、当初は諏訪大社の中心地だったとされます。中心が上社本宮に移ると、前宮は上社の境外摂社の筆頭という立ち位置になったようです。明治以降は上社前宮として本宮と並んで諏訪大社4社に列し、現在に至ります。

境内は山際の斜面にあり、社殿はほかの3社(本宮、秋宮春宮)とは異なる構成になっており、本殿や十間廊といった独特の社殿を見ることができます。文化財指定されている建造物はありませんが、境内は県の史跡に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒391-0013長野県茅野市宮川安国寺2030(地図)
アクセス 茅野駅から徒歩30分
諏訪ICから車で10分
駐車場 50台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト 諏訪大社 | 信濃國一之宮 諏訪大社(公式サイト)
所要時間 20分程度

 

境内

参道

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諏訪大社上社前宮の境内は北東向き。

幹線道路に面した場所に、駐車場と大鳥居があります。上社本宮はここから北西へ1キロメートルほどの場所にあります。

大鳥居は石造の明神鳥居。

 

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境内に入って奥へ進んだ先にも鳥居(おそらく二の鳥居)があります。

こちらは銅板でカバーされた明神鳥居。

 

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参道左手には手水舎。

切妻、銅板葺。

 

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柱は几帳面取りの角柱。

虹梁木鼻は象鼻が使われています。

 

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柱上の組物は出三斗。中備えは蟇股。

妻飾りは豕扠首。

内部には天井がなく、化粧屋根裏。軒裏はまばら垂木。

 

内御玉殿

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二の鳥居の右手には内御玉殿(うちみたまでん)。

三間社流造、向拝1間、銅板葺。

案内板(安国寺史友会)によると1938年の再建。再建前の社殿は1585年(天正十三年)のものだったとのこと。

もとは社宝が安置されていた社殿のようです。

 

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向拝柱は角柱。古式を意識したのか、大きく面取りされています。

柱上には連三斗。柱の側面から斗栱が出て、連三斗を持ち送りしています。

母屋の正面は3間で、中央の1間にだけ扉が設けられています。

 

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虹梁の中備えには透かし蟇股が2つ。

向かって左は諏訪梶の紋が彫られています。右は桐らしき植物の意匠。

 

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母屋柱は円柱。柱上は出三斗と平三斗。

妻飾りは豕扠首。破風板の拝みと桁隠しには蕪懸魚。

 

十間廊

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二の鳥居の左手には十間廊(じっけんろう)という横長の社殿があります。

桁行10間・梁間3間、入母屋、銅板葺。造営年不明。

 

上社の神事のひとつ、御頭祭(酉の祭)が行われる場所。

御頭祭は毎年4月、75頭もの鹿の首を並べて捧げるというもの。なお鹿の首は、現在は剥製を使っているようです。五穀豊穣を願う神事なのですが非常に狩猟的な内容で、日本人が狩猟民族だったころの名残を思わせます。

 

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柱は円柱。頭貫には木鼻が設けられています。

組物は出三斗と平三斗。中備えは間斗束。

 

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正面向かって右から3間目は通用口になっており、ここだけは柱間に虹梁がわたされています。

内部は格天井が張られています。

 

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向かって右の2間通りは窓の部分に連子が設けられています。

ほかの柱間は腰まで板が張られ、それより上は建具がありません。

 

拝所と本殿

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参道を進むといったん生活道路に出て、集落の中の坂道を進みます。

再度境内に入ると拝所と本殿があります。

こちらは拝所。ほとんど門のような造りをしているため、拝殿ではなく拝所と呼ぶのが適当でしょう。

拝所の屋根は切妻、銅板葺。左右には板塀が巡らされ、後方の本殿を囲っています。

 

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拝所の柱は円柱。柱上は舟肘木。

妻虹梁は眉欠きだけが造形されたもの。妻飾りは豕扠首。

 

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破風板の拝みには懸魚が下がっています。中央に六葉などの金具はなく、円いくぼみがついています。

懸魚の付け根には銅板の飾り金具がつき、中心部には諏訪梶の紋があしらわれています。

 

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拝所の後方には本殿。

本宮秋宮春宮の3社は本殿のかわりに「宝殿」という社殿があり諏訪造と呼ばれる社殿配置となっているのですが、この前宮は「本殿」があります。前宮は諏訪大社4社のうちの一社にもかかわらず諏訪造になっておらず、ほかの3社とくらべて異質です。

 

本殿は桁行3間・梁間4間、切妻、銅板葺。

昭和初期の造営のようです。伊勢神宮の本殿(20年ごとに建て替える)の古材が再利用されているとのこと。

祭神は諏訪明神(タケミナカタと八坂刀女)とされていますが、ミシャグジという当地の土着神が祀られているとする説もあります。

 

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柱はいずれも円柱。柱上は舟肘木。

前方の2間は長押の位置が低く、外陣のような格式の低い空間になっているのでしょう。

後方の2間は柱間が少し狭くなっており、神座があるものと思われます。

妻飾りは二重虹梁。虹梁の上には束が立てられています。

大棟の上には千木と鰹木。千木は外削ぎ、鰹木は5本あり、木口は諏訪梶の紋の金具で飾られています。

 

ほか、本殿の後方の山中にはタケミナカタの陵の跡地とされる場所があるようですが、見落としていたため割愛。

 

以上、諏訪大社上社前宮でした。

(訪問日2019/04/13,2021/11/03)